「経理は、あの人がいないと回らない」。中小企業では、本当によく聞く言葉です。月次の締めも、仕訳の確認も、未処理の支払いの洗い出しも、ぜんぶ一人の経理担当が頭の中と手作業で抱えている。その人が休んだり、辞めたりした瞬間に、月末が止まる。これが「属人化」のいちばん怖いところです。
実際、中小企業では経理を一人で担っている会社が多く、属人化は経理現場の課題として上位に挙がります(中小企業庁・ミロク情報サービスなどの調査)。最近はAIを使った経理ツールも増えましたが、「思ったより使いにくくて定着しなかった」という声も少なくありません。道具を入れただけでは属人化は消えないのです。大事なのは、誰がやっても同じ結果になる”設計”のほうです。
先に結論を言うと、ここは道具の組み合わせで「一人でも確認するだけで回る」状態にできます。freee(フリー・クラウド会計ソフト) の自動仕訳と、Google Apps Script(グーグル・アップス・スクリプト・スプレッドシートを自動で動かす Google 製の仕組み・追加費用なし) を組み合わせ、Google スプレッドシート に「未処理だけが残る」状態を作る。一度組めば、月末は確認するだけになり、担当が不在でも止まりません。以下、どの工程でどのツールを使うかまで具体名で説明します。
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結論:属人化は「頭の中にある手順」を外に出せば消える
経理が属人化するのは、担当者が手を抜いているからではありません。むしろ逆で、「この取引先はこの科目」「この支払いは毎月25日」といった判断の手順が、その人の頭の中にしか無いから、他の人が代われないのです。
ということは、打ち手はシンプルです。頭の中にある手順を、会計ソフトのルールと、自動チェックの仕組みに移す。そうすれば、毎月の仕訳は機械が下書きし、抜けや未処理は機械が拾い、人は最後に「合っているか確認するだけ」になります。判断の手順が外に出た瞬間、その業務はもう特定の一人に縛られません。
一人経理の月末作業:仕組み化の前と後(月・中小企業のよくある規模での目安)
ここが肝
「全部を機械に任せきり」にはしません。最後に人が目を通す工程を必ず残すことで、いつもと違う数字や見慣れない取引にも気づける仕組みになります。
一人経理がリスクになる構造:「属人化」が月末に集中する理由
なぜ経理は、これほど一人に集中しやすいのでしょうか。理由は業務の性質にあります。経理は「毎日の細かい入力」と「月末のまとめ」が積み重なる仕事で、途中から別の人が入っても前後の文脈が分からないと手を出せないのです。
そして厄介なのが、負荷が月末の数日にギュッと集中すること。日々は淡々と入力していても、締めの時期になると「未処理の請求書はないか」「この入金はどの売上か」「この経費の科目は何か」といった判断が一気に押し寄せます。その判断を一人が握っているから、その一人が倒れた瞬間に会社の数字が止まる。

ここでよくある誤解が、「だから人を増やせばいい」というものです。けれど中小企業で経理を2人にするのはコストが重く、増やしても手順が共有されていなければ結局また属人化します。本当の解決は人数ではなく、手順を仕組みに移して「誰がやっても同じ」にすること。次の章で、向き不向きから具体的な作り方まで順に見ていきます。
向いている会社・向きにくい会社
向いているのは、経理を実質一人で回している会社です。担当が休むと月末が止まる、その人しか勘定科目の振り分けが分からない、という状態ほど、仕組み化の効果は大きくなります。取引のパターンが毎月だいたい同じ(固定の取引先・定額の支払い・定例の入金)会社も、ルール化しやすく相性が良いです。
逆に、すでに複数人で経理を分担し手順書も整っている会社や、取引が毎回まったく違って”型”が作りにくい会社は、伸びしろは小さめです。それでも「未処理の支払い・入金だけを自動で拾う」「月末チェックリストを自動で配る」といった部分的な導入なら、確認の手間を着実に減らせます。
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具体的に、どう仕組みにするか
頭の中の手順を外に出す流れは、大きく3ステップです。「会計ソフトに仕訳を自動で下書きさせる → 未処理だけが残るようにする → 月末チェックを自動で配る」。この順に組むと、月末は確認するだけの状態に近づきます。
一人でも回る経理にする3ステップ
- 1仕訳を自動で下書きさせる会計ソフトの自動仕訳ルールで、よくある取引は科目つきで自動入力。人は確認するだけに。
- 2未処理だけを残す判断が必要な明細にフラグを立て、処理済みは消える形に。残ったものだけ見れば済みます。
- 3月末チェックを自動で配る「何が終わって何が残っているか」のチェックリストを自動生成。担当が代わっても同じ手順で締まります。
それぞれの工程を、もう少し具体的に見ていきます。
- よくある取引のルールを決める:「この取引先からの入金は売上、この引き落としは通信費」のように、頭の中にある振り分けの判断を、会計ソフトのルールとして登録します。この一度の整理が、毎月の自動仕訳の土台になります。
- 自動で仕訳が下書きされる状態にする:登録したルールに沿って、明細が入るたびに科目つきの仕訳が自動で下書きされます。人は「合っているか」を確認して承認するだけです。
- 判断が要るものだけにフラグを立てる:ルールに当てはまらない明細=「人が判断すべきもの」だけを未処理として残します。処理が済んだものは一覧から消えるので、残っているものを見れば未処理がひと目で分かります。
- 月末チェックリストを自動で配る:締めの前に「請求書の計上漏れはないか」「未入金の売掛はないか」といった確認項目を自動でまとめ、決まった場所に届けます。担当が代わっても、このリストをなぞれば同じ品質で締められます。
- 最後に人が目を通す:自動で組み上がった締めの下書きを、人が確認して確定します。いつもと違う動きにはここで気づけるので、この一工程は必ず残します。
肝心なのは、5の「人が最後に確認する工程」を残すこと。全部を機械に任せきりにしないことで、不正や入力ミスにも気づける、安全な仕組みになります。
実際に、どの道具を使うのか
ここは具体名で踏み込みます。工程は「仕訳の自動化 → 未処理フラグの管理 → 月末チェックの自動配布」に分かれ、それぞれに向く道具があります。

仕訳の自動化(会計ソフト側でやる)
中心になるのは freee(フリー・クラウド会計ソフト) や マネーフォワード クラウド です。どちらも銀行口座やクレジットカードの明細を自動で取り込み、「この取引先からの入金は売上」「この引き落としは通信費」といった自動仕訳ルールを登録できます。一度ルールを作れば、よくある取引は科目つきで自動入力され、経理担当は中身を確認して承認するだけになります。頭の中にあった”振り分けの判断”が、ソフトのルールとして外に出るのが、属人化を消す第一歩です。

未処理だけを残す(スプレッドシートで見える化)
自動仕訳に当てはまらない「人が判断すべき明細」を拾うのが Google スプレッドシート と Google Apps Script(GAS・表計算を自動で動かす Google 製の仕組み・追加費用なし) の出番です。会計ソフトから明細を定時で読み込み、ルール未適用のものや金額が大きいものに自動でフラグを立て、処理が済んだ行は色や状態が変わって一覧から落ちるようにします。担当者はフラグが立っている行だけを見ればよく、「全部を頭で覚えておく」必要がなくなります。

月末チェックの自動配布(GAS でやる)
締めの品質を「人によって変わらない」ようにするのが、Google Apps Script で作る月末チェックリストの自動配布です。「請求書の計上漏れはないか」「未入金の売掛はないか」「未処理フラグは全部片付いたか」といった確認項目を、締めの前に自動でまとめ、Slack や Gmail で決まった場所に届けます。担当が代わっても、このリストをなぞれば同じ手順で締められる。つまり手順書が”自動で配られる”状態を作るわけです。
この仕組みに使う主なツール(例)と、それで得られること
- A会計ソフト(例:freee・マネーフォワード)自動仕訳ルールで、よくある取引を科目つきで自動入力。人は確認するだけに。
- BGoogle スプレッドシート + Apps Script(表計算を自動で動かす仕組み)判断が要る明細だけに未処理フラグを立て、処理済みは消える形に。
- CApps Script + Slack / Gmail(自動で通知)月末チェックリストを自動で配布。担当が代わっても同じ品質で締まります。
なお、自社(Head High)でも freee の自動仕訳と月次レポートの設計を実際に運用しており、「ルールを一度きちんと作ると、毎月の確認は本当に”見るだけ”になる」という手応えがあります。最初のルール設計にだけ手間がかかり、そこを越えると一気にラクになる。この負荷の山が前半に来るのが、この仕組みの特徴です。
つまずきやすい点
- ルールを作らずに自動化しようとする:自動仕訳ルールや未処理の判断基準を決めないまま動かすと、結局「全部手で確認」に逆戻りします。最初のルール設計が成否を分けます。
- 未処理の定義が人によって違う:「何を未処理とみなすか」が曖昧だと、フラグが信用できなくなります。一度決めて文章で残しておきます。
- チェックリストを作って終わりにする:リストは「自動で・決まった場所に届く」までやって初めて回ります。手で配る運用だと、配り忘れた月にまた属人化が顔を出します。
よくある質問
Q. 会計ソフトを今のものから変える必要がありますか? A. 必ずしも変える必要はありません。freee やマネーフォワードのように自動仕訳と外部連携の口(API)が用意されたソフトなら、今の運用を活かしたまま仕組みを足せます。どのソフトでどこまでできるかは、御社の状況に合わせて確認します。
Q. うちは経理が一人で、引き継ぎ資料もありません。それでもできますか? A. むしろ、そういう会社ほど効果が出ます。今は頭の中にある手順を、ルールとチェックリストに移す。その作業そのものが「引き継ぎ資料を作る」ことになります。一人に依存した状態を、仕組みのほうに移していく形です。
3行まとめ
属人化の正体は「頭の中にしかない判断の手順」。それを①会計ソフトの自動仕訳ルール ②未処理だけ残すスプレッドシート ③自動で配る月末チェックリスト、の3つに移せば、一人でも・担当が代わっても、月末は「確認するだけ」で回ります。
Q. 数字を間違って自動処理しないか不安です。 A. だからこそ、最後に人が確認する工程を必ず残します。自動仕訳はあくまで”下書き”で、承認は人がします。未処理や見慣れない取引は自動で目立たせるので、確認はむしろ今より早く・正確になりやすいです。
なお、この記事の数値は、特定の実在企業の事例ではなく、現場でよく見る状況を組み立てた代表的なケースです。御社に当てはめた目安は、診断で出すのがいちばん近くなります。
一人経理の月末は、社員の時間を地味に削り続けているうえに、その人が倒れたら止まるという危うさを抱えた業務です。頭の中の手順を仕組みに移せば、月末は「確認するだけ」になり、担当が休んでも会社の数字は止まりません。御社のどの作業から手をつけると時間が浮きそうか、まずは目安を出してみませんか。
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